「連合艦隊の栄光と悲劇 吉田俊雄」を読む。
○ 著者吉田 俊雄(1909~2006 享年97)は元海軍軍人最終階級は海軍中佐。筆致は海軍愛に満ちている。
○ 連合艦隊の栄光を象徴するのが東郷平八郎であり、悲劇を象徴するのが山本五十六である。
○ 海軍に志を立てたもの、誰しも一度は連合艦隊司令長官となって、大将旗を旗艦のマストに翻し、海の香一杯の快いそよ風を浴びて、艦橋の晴れ舞台に立ち、全軍を一望のもとに収めて、命令一下、これを意のままに動かしてみたいと思わないものはなかった。
○ しかし、ひとたび祖国が敵国と干戈を交え、連合艦隊にも出撃の大命が下れば、連合艦隊司令長官は、一転して人間以上の「鬼」であることを求められる。人の生命を、作戦達成のために犠牲にする、世にも苛酷な、凄まじい「鬼」である。
○ 連合艦隊司令長官となった者は常に「絶対不敗」の十字架を背負っていた。
その厳しい使命を遂行するために、男たちは、いかに思考を尽くし、戦いに挑んだのか。 本書では、この孤高の男たちの代表である、日露戦争の東郷平八郎、太平洋戦争の山本五十六がしるした足跡を辿りながら、日本海軍の栄光と悲劇の歴史ドラマを鮮やかに蘇らせる。
○ 明治維新後に帝国主義に邁進し軍隊を造った弱小国日本が日露戦争に辛うじて勝って世界の一等国の仲間入りをした。
○ そしてその最大の貢献者は本書の前半の主人公である東郷平八郎である。
日露戦争には日清戦争後に取得した遼東半島を返還させられるといった三国干渉(特にロシア)に対する臥薪嘗胆のスローガンと帝国主義か植民地化かといった時代背景とが重なり軍部と国民と政府との歯車がかみ合っての勝利であった。
○ その歴史的勝利が太平洋戦争では一番の足枷となったことは事実である。
そして英雄となった東郷的精神論が太平洋戦争でもまかり通ってしまったことが敗戦の第一要件であった。日露戦争から40年弱、日本は戦争らしい戦争を体験していない。
○ 第一次世界大戦を体験した欧州は戦勝国も敗戦国も廃墟と化しました。明らかに日露戦争後の戦争は経済(物量)戦争的に変化した。
その事実を知っていたのは連合艦隊では山本五十六であろう。
○ 太平洋戦争においては日本海軍は、開戦劈頭、ハワイ真珠湾の敵主力艦隊を猛撃撃破し、アメリカ海軍とアメリカ国民を士気阻喪におとしめる作戦であった。しかしアメリカ空母は完全に無傷であった。またかえってアメリカは士気盛になって、日本海軍の作戦は効を奏しなかった。
○ 続いて行われたミッドウエイ作戦では、日本海軍は航空母艦4隻とその艦載機多数を一挙に喪失する大損害を受け制海権を失った。原因はアメリカに日本海軍の暗号が解読されていた事が大きい。
この敗北は国民にも、海軍内部でも極秘とされた。
○ 東郷と山本という正反対の2人の提督。時代が違えばきっと与えられた評価も大きく違ったであろう。
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