「日本の作家 ドナルド・キーン」を読む。
○ 内容的には、森鴎外、正岡子規と石川啄木、谷崎潤一郎、川端康成、太宰治、三島由紀夫、安部公房、大江健三郎といった、近代日本文学代表的作家について、年代順に語られる。
○ 古典文学については既に評価が定まっているので、この書では語られていない。
○ 著者の魅力は、日本人も成し遂げなかった「近代日本文学通史」をひとりで完結させたこと。そこからくる確実で、広博な見識がある。さらに学者然としていない、しなやかな感受性。いい意味で個人的な、感情や体験が表に出てくる文章である。
○ 川端康成がノーベル文学賞受賞に際し著者キーン氏が贈った歌
『今年より若菜にそへて老いの世に嬉しき事をつまむばかりぞ 藤原忠平』
○ 著者は彼の視点は新鮮であり、なにか出来事をとり上げるだけでも、近代日本文学に光があたる。
○ 著者は森鴎外についてはあまり高く評価しない。
○ 正岡子規「生涯での大きな事件のひとつは、高浜虚子にその後継者になるのを断られたことである。」
○ 子規と啄木「啄木の世界は子規よりも十年後のものである。啄木が読んだ洋書は、フランクリン自伝ではなくて、ゴリキーやイプセンだった。このふたりを隔てているものは、文学史的には十年ではなく一世紀だった」
○ 「啄木の歌には子規ほどの深みはなくて、山本健吉が子規の句に加えているような精妙な分析に堪えるものではない。だが彼の短歌を最初に読む時には、なにか我々を無抵抗にするものがある」
○ 啄木は不思議な歌人であった。素晴らしい短歌を詠みながら、経済的破綻者であった。
金田一京助はそれでも啄木を援助し続けた。
○ 谷崎潤一郎の文学の特徴は女性賛美である。『武州公秘話』は十三歳の少年輝勝がいて、自軍の女たちが、敵兵の首を洗い、化粧し、名札を付ける作業をじっと見ている。それは病的で強烈であり、作者の業績の最高位に属し、同時代の世界文学のどの傑作にも匹敵する」
「昭和八年に発表された『陰影礼讃』は、谷崎氏の審美趣味の最も完成された、詩的なものであり、西洋をまったく拒否した伝統的日本的な生き方についての弁明の書である。
彼の西洋と東京とに対する反発は、関西に十年ほど住み慣れて伝統的教養を摂取したこの時期に特に強かった」
○ 意外なのは、太宰治への高い評価だ。日本だと太宰は私小説作家のひとりとされ、負の感情や、今の言葉で言えば負け組的心情をリアルに書いた作家という風に受け取られていると思うが、キーン氏が言うには、太宰の国際的な評価はドストエフスキーに匹敵するというなことが書かれている。
キーン氏は『人間失格』の英訳者であり、太宰の小説家としての確かな力量や現代作家性を指摘する。
○ 著者は永井荷風の話す美しい日本語に魅了された。
○ 著者が最も公私ともに親しく交わったのが、三島由紀夫である。三島文学の本質、自決までの道程を記している。そこには、作家と翻訳者・研究家としての距離が保たれながらも、友人として万感の思いが込められている。三島由紀夫は文学的絶好調に亡くなった。
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