2016年1月13日水曜日

1月13日。朝日新聞「リレーおぴにおん」で由美かおるさんが語る。 視聴者は悪代官が女忍者に手玉取られお風呂で水責めなって大喜びだった。由美かおるさんご苦労さまでした。 テレビ時代劇「水戸黄門」では撮影で200回以上お風呂に入りました。最初は毎回じゃなかったんです。でも入浴シーンになった瞬間、視聴率が跳ね上がるというんです。クイズ番組では、私がお風呂に入るのは8時何分かっていう問題まで出たと聞きました。世間でこんなに話題になっているんだから毎回お願いって、プロデューサーから頼まれまして。  撮影は結構、大変でした。水着は着けているんですが、恥ずかしいし、湯あたりはするし。  でも、スタッフが研究熱心でね。岩風呂、五右衛門風呂、檜(ひのき)風呂と、手を変え品を変え、すごいセットをつくってくれました。全部、京都・太秦の東映撮影所で撮っていたんです。私が演じた忍者は、水を使って悪代官をこらしめたりするんですが、この難しい場面も皆さんとても苦労して、上からザブンと水を落としてくれた。噴水のような装置も考えてくれましたし。  いろんなアイデアを、監督もスタッフもみんなで一緒に考える。何とかして面白いものをつくろう、お茶の間に送りだそうと頑張る。そんな熱気が、現場にはあふれていました。  「水戸黄門」の人気の秘訣(ひけつ)は、いわば偉大なるマンネリだったとも思うんです。「この印籠(いんろう)が目に入らぬか」という、毎回おなじみのセリフにしてもそう。歌舞伎の型のようなものです。  皆さんがお仕事に疲れて帰宅した夜、チャンネルを回すと、きっとどこかの局が時代劇をやっている。最後には期待通り、正義が勝つ。ホッと一息ついて、また明日も頑張ろうと思う。世の中が右肩上がりに成長を続けた時代の、一服の清涼剤の役割を、私もお風呂で果たしていたのかなって。  だから、42年も続いた番組が5年前に終了したときはショックでした。時代劇が次々に姿を消すのが残念でもあった。日本の伝統や文化、人として大事なことを伝える大切な役割を担っていたからです。家族の愛情や仲間との絆だけじゃない。たとえば漆塗りの場面があれば、わざわざ金沢から職人を呼んで、手元はその技を撮っていた。たくさんの本職のかたにご協力いただきました。そんな蓄積が失われていくのかと思うと、寂しくて。  最近、テレビを見ていて、時代劇はもっと冒険していいんじゃないかと思うんです。本当のところ、昔がどうだったかなんて誰もよく知らない。想像と幻想をどんどん膨らませ、作り込んで、本物らしく演技すればいい。そこに、役者が自然体のままで撮れる現代ドラマとは違った、時代劇の可能性が広がっていると思うんです。

1月13日。朝日新聞「リレーおぴにおん」で由美かおるさんが語る。
視聴者は悪代官が女忍者に手玉取られお風呂で水責めなって大喜びだった。由美かおるさんご苦労さまでした。
テレビ時代劇「水戸黄門」では撮影で200回以上お風呂に入りました。最初は毎回じゃなかったんです。でも入浴シーンになった瞬間、視聴率が跳ね上がるというんです。クイズ番組では、私がお風呂に入るのは8時何分かっていう問題まで出たと聞きました。世間でこんなに話題になっているんだから毎回お願いって、プロデューサーから頼まれまして。
 撮影は結構、大変でした。水着は着けているんですが、恥ずかしいし、湯あたりはするし。
 でも、スタッフが研究熱心でね。岩風呂、五右衛門風呂、檜(ひのき)風呂と、手を変え品を変え、すごいセットをつくってくれました。全部、京都・太秦の東映撮影所で撮っていたんです。私が演じた忍者は、水を使って悪代官をこらしめたりするんですが、この難しい場面も皆さんとても苦労して、上からザブンと水を落としてくれた。噴水のような装置も考えてくれましたし。
 いろんなアイデアを、監督もスタッフもみんなで一緒に考える。何とかして面白いものをつくろう、お茶の間に送りだそうと頑張る。そんな熱気が、現場にはあふれていました。
 「水戸黄門」の人気の秘訣(ひけつ)は、いわば偉大なるマンネリだったとも思うんです。「この印籠(いんろう)が目に入らぬか」という、毎回おなじみのセリフにしてもそう。歌舞伎の型のようなものです。
 皆さんがお仕事に疲れて帰宅した夜、チャンネルを回すと、きっとどこかの局が時代劇をやっている。最後には期待通り、正義が勝つ。ホッと一息ついて、また明日も頑張ろうと思う。世の中が右肩上がりに成長を続けた時代の、一服の清涼剤の役割を、私もお風呂で果たしていたのかなって。
 だから、42年も続いた番組が5年前に終了したときはショックでした。時代劇が次々に姿を消すのが残念でもあった。日本の伝統や文化、人として大事なことを伝える大切な役割を担っていたからです。家族の愛情や仲間との絆だけじゃない。たとえば漆塗りの場面があれば、わざわざ金沢から職人を呼んで、手元はその技を撮っていた。たくさんの本職のかたにご協力いただきました。そんな蓄積が失われていくのかと思うと、寂しくて。
 最近、テレビを見ていて、時代劇はもっと冒険していいんじゃないかと思うんです。本当のところ、昔がどうだったかなんて誰もよく知らない。想像と幻想をどんどん膨らませ、作り込んで、本物らしく演技すればいい。そこに、役者が自然体のままで撮れる現代ドラマとは違った、時代劇の可能性が広がっていると思うんです。

0 件のコメント: