2016年8月17日水曜日

竹中稔和さん(72)は「日向木挽き唄」の名人だ。職業は製材業だ。 宮崎県「日向木挽き唄」 山で子が泣く 山師の子じゃろ ほかに泣く子が あるじゃなし   民謡の多くは仕事唄だ。追分や馬方節、馬子唄は荷を背負った馬を引く時の唄が元になっている。浜唄は漁師が歌う。田植え唄、機織り唄、炭坑節。いずれも労働のつらさ、単調さを忘れさせ、能率を上げるために歌われてきた。だが、作業の機械化が進むとともに、仕事はすっかり様変わりしている。現場を失った仕事唄は今、どんな風に歌われているのだろうか。  九州で人気の民謡に「日向木挽き唄」がある。山で倒した木を、運びやすい大きさ、加工しやすい形に切ったり、丸太をタテに薄く切ったりする時の唄だ。  毎年6月に宮崎県日向市で開かれるこの唄の大会は面白い。民謡大会の出場者は着物姿が多いが、ここの出場者は野良着姿が多いのだ。しかもつぎはぎだらけだ。  女性の出場者は手拭いを肩にかけて、絣(かすり)のもんぺに前掛け。男性は手拭いで鉢巻きをして、腰には水入れのひょうたんやたばこ入れ。鹿皮の尻当て。手足は手甲(てっこう)と地下足袋で固める。そのまま山に入れそうだ。念を入れた人は背中にカゴを担ぎ、大きな木挽き鋸(のこぎり)を手にして歌う。  その一人、竹中稔和さん(72)は製材業。木挽き唄にふさわしい方だが、それでも実際に木挽きをした経験はない。野良着は福岡県久留米市の知人から絣の着物をもらって仕立て直し、わざとツギをあてた。鋸も製材所の大先輩が実際に山で使っていたものを譲り受けた。 「2016年8月16日、朝日新聞」  

竹中稔和さん(72)は「日向木挽き唄」の名人だ。職業は製材業だ。

宮崎県「日向木挽き唄」
山で子が泣く
山師の子じゃろ
ほかに泣く子が
あるじゃなし

  民謡の多くは仕事唄だ。追分や馬方節、馬子唄は荷を背負った馬を引く時の唄が元になっている。浜唄は漁師が歌う。田植え唄、機織り唄、炭坑節。いずれも労働のつらさ、単調さを忘れさせ、能率を上げるために歌われてきた。だが、作業の機械化が進むとともに、仕事はすっかり様変わりしている。現場を失った仕事唄は今、どんな風に歌われているのだろうか。
 九州で人気の民謡に「日向木挽き唄」がある。山で倒した木を、運びやすい大きさ、加工しやすい形に切ったり、丸太をタテに薄く切ったりする時の唄だ。
 毎年6月に宮崎県日向市で開かれるこの唄の大会は面白い。民謡大会の出場者は着物姿が多いが、ここの出場者は野良着姿が多いのだ。しかもつぎはぎだらけだ。
 女性の出場者は手拭いを肩にかけて、絣(かすり)のもんぺに前掛け。男性は手拭いで鉢巻きをして、腰には水入れのひょうたんやたばこ入れ。鹿皮の尻当て。手足は手甲(てっこう)と地下足袋で固める。そのまま山に入れそうだ。念を入れた人は背中にカゴを担ぎ、大きな木挽き鋸(のこぎり)を手にして歌う。
 その一人、竹中稔和さん(72)は製材業。木挽き唄にふさわしい方だが、それでも実際に木挽きをした経験はない。野良着は福岡県久留米市の知人から絣の着物をもらって仕立て直し、わざとツギをあてた。鋸も製材所の大先輩が実際に山で使っていたものを譲り受けた。
「2016年8月16日、朝日新聞」

 

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